たなこうのblog

春夏秋冬、手放せない点鼻薬。

お前に花束を渡してもらいたい

小学校3年生の頃、転校する友達への手向けとして、花束を贈呈することがクラスの慣習であった。

 

 当時、僕にはM君というクラスメイトがいた。放課後は毎週のように一緒に遊ぶ仲だった。そんな彼が1学期の終わりに転校すると聞かされた時は衝撃を受けずにはいられなかった。

 

 M君のお別れ会の2日前。M君は、今でも鮮明に耳に残る、暖かい言葉を僕に吐露した。

 

 「学校の中で一番の親友って呼べるのは、たなこうしかいない。だから、お別れ会当日は、お前に花束を渡してもらいたい。」

 

 M君の口から放たれた、雑味のない純粋な言葉。そして何より、一番の親友と認めてくれていたことに嬉しさと感動を隠せなかった。

 

 だけど僕は親友の最後の申し出を聞き入れることができなかった。嬉しさや感動よりも、恥ずかしさが勝ってしまった。M君からは更に2度ほどお願いをされたが、「恥ずかしいから...」といって彼のリクエストをはねのけてしまった。

 

 結局、お別れ会当日はクラスの委員長がM君に花束を渡していた。その光景を眺めていると、M君と別れる悲しさよりも、もう二度と受けることのないM君からのお願いを聞き入れなかった自分の情けなさや悔しさが胸を締め付けていた。花束を受け取ったM君はクラスメイトに感謝の言葉を述べた。せめてもの思いを込めて、僕はM君に誰よりも大きな拍手を送った。

 

 今ならそんな後悔はもうしない。恥ずかしさよりも、二度と訪れないその一瞬に彩りを飾るため全力を尽くすことができるようになったから。
 でももし当時に戻れるのなら、僕がM君に花束を手渡し、「ありがとう、親友」と伝えたい。